大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)3088号 判決
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〔判決理由〕二、<証拠によれば>次の事実が認められる。
(一) 訴外中川は昭和四二年末頃より米穀類等の販売業を営む被告会社に店員として勤務し、本件加害車を専属的に使用して米穀類の配達等の業務に従事していたものであるが、本件事故当日、注文の米穀類を得意先に配達するため加害車を運転し、被告会社店舗の約三〇メートル離れた地点付近に至つた際、訴外羽野こと上野和行と出合い、同人から加害車の前に立ち塞がれて「乗せてくれ」と依頼を受けた。右上野は中川の中学生当時の同級生の弟で、中学生当時より互に顔見知りではあつたが親しく交際するほどの間柄ではなく、上野が定職もなく街を徘徊する不良グループの一員であるように見受けられたので、中川において、常日頃より上野を敬遠していた。しかし、助手席に同乗させるのみと考え同乗させようとしたところ、同人が「運転したいのだ」というやいなや運転席に乗り込んできて、同人によつて助手席側に押しやられるに至つたが、同人にいささか畏怖心を持つていたため、追い出すこともできず、嫌嫌ながら、同人のなすがまま助手席に移つた。すると上野は同車を運転しはじめ、同所より約五〇メートル進行した付近で同所に居合せた上野の友人と思われる二名の男性を同車の後部座席に同乗させて再び発進させた。中川は、上野の運転中同人の運転技術が未熟で、また、飲酒してきていることに気付いたので、同人に対し運転を止めるよう懇願したが、同人は、「運転免許は持つている」、「コカコーラを飲んだだけだ」というのみで、これを聞き入れず、運転を継続して約二〇分後、府下門真市に至り、同市内の文化住宅の前で同車を停車させた。そして途中同乗させた者に同住宅内の上野の友人を呼びに行かせ、その友人が出てくるや、これを助手席に同乗させようとした。そこで、中川は一旦降車して上野に対し再度運転を止めるよう依頼したが、応ずる様子がなかつたので、止むなく後部座席に乗つたところ、上野から「降ろ」と申し向けられ、更にニヤニヤ笑いながら、同車に積み込んであつたプラッシーの瓶を振り上げるような挙動を示されたため、その勢いに押されて同乗を諦めると、上野は同市内で誘つた友人一人のみを乗せ、中川らに対し、「すぐ帰るから待つていろ」と申し向けて、中川および前記他の二名の者を残して同車を運転して同所を去つて行つた。なお同所における停車時間は約一〇分間程度であつた。その後、中川は同所で上野の帰るのを上野の他の友人二名と共に待つていたが、約二〇分間経過するも帰つて来る様子がなかつたため、被告会社に電話で連絡したところ、本件事故の発生したことを知らされた。
(二) 訴外上野和行は、中学校卒業後、鉄工所等に勤務したが、勤務成績が悪く転々と職を変え、昭和四二年初旬頃強盗を犯して中等少年院に送致されたり、昭和四三年頃には無免許運転で処罰されもしたが、昭和四四年九月頃、当時の勤務先を成績不良のため退職させられ、家庭においても同人の素行が不良であるため実兄より「家を出て行け」と叱られたため、同月二日、家出して、付近の空屋で寝泊りし、翌日、午後四時頃、友人の家で友人と共に二名でウイスキーのポケット瓶二本を飲み、酒に酔つた状態で歩行中、かねて顔見知りの訴外中川が本件事故車を運転してくるのに出合つた。その際、無性に自動車を運転したい気持にかられ、同人に対し、「車を貸してくれ、頼むわ」などと申し向けて、強引に運転席に乗り込み、運転免許を有してはいなかつたが、かつての勤務先で運転技術を習つたことがあつたため、その後通り合せた顔見知りの友人二名をも同乗させて、同車を運転して、友人の訴外川口昭夫の居住する門真市へ赴いた。同市内で、途中同乗させた者に川口を呼びに行かせ、川口のみ同乗させ、中川や他の二名の者を降車させて、同人らに対し「一寸行つてくる。すぐ帰つてくるから待つておれ。」と言い残し、同車を運転してドライブに出発した。途中無免許の川口に運転を交替してやつたりした後、上野が運転して、本件事故現場にさしかかつたころ、飲んだウイスキーの酔いもまわり、速度感覚も鈍りまた運転技術も拙劣なため、時速六〇キロメートルの高速度で進行したのち、停車していた先行車(本件被害車)に追突し本件事故を発生させるに至つた。事故発生後、上野は無免許や酒気帯び運転による事故であることの発覚を恐れ、川口と共に現場を逃げ出し、大阪府下の空家などで寝泊りしたのち、東京へ赴き、パチンコ店で働いていたところを、同年一〇月一日、逮捕されるに至つた。
三、右事実によれば、中川は被告会社の米穀類等の配達の業務に従事し、かねてより専属的に使用していた本件加害車を運転中、顔見知りの上野から運転させてくれとの依頼を受け、同人が素行不良者で無頼の徒であること知つていたため、後難を恐れ、同人の運転が極めて未熟(同人は無免許であつた)でしかも飲酒していたことを知りながら、同人の加害車の運転を黙認したものであり、また、同人より多少強迫的言動を受けたとはいえ門真市内での約一〇分間の停車時間中および上野が中川を降車させて加害車を運転して去つた後においてもその後約二〇分後に被告会社に連絡するまで第三者に救助を求め、あるいは警察に通報するなどの処置をとらなかつたことが認められる。
四、ところで、自賠法第三条による運行供用者責任の成否の基準である運行供用者性の有無の判断は、必ずしも当該運行に対する直接、具体的な支配の存在を要件とするものではなく、社会通念上、当該車の運行に対し支配を及ぼすことのできる立場にあつたか否か、即ち、運存を支配・制禦すべき責務があると評価されるか否か、に求められるのが相当と解されるところ、本件についてこれをみるに、右に認定した如く、被告所有の加害車を被告会社の従業員中川が被告会社の業務のため使用中、同人の顔見知りの上野に強いられて同人が同車の運転をするのを黙認し、当初は中川が同車の助手席に同乗していて上野の運転技術が極めて未熟でかつ酒気帯び運転しているを知悉しながら約二〇分間に亘る走行中運転を停止させるための特段の措置をとらず、また停車中更にその後降車させられ後においてもいたずらに手を拱いて警察への緊急通報等の措置をとらなかつたものであるから、中川は、加害車を職務上管理する立場にあるものとして充分な管理上の義務を尽さなかつたもので、そのために本件加害車が運行に供されたものというべきであり、そうならば、本来、加害車の所有者として一般的、抽象的に同車に対する支配の及んでいる被告においては、その従業員の管理上の過失によつて同車が運行に供された以上、運行に対する支配、制禦の責務を怠つたものとして、運行供用者責任を免れることはできないものと認めざるをえない。もつとも、右の立場にある従業員が反抗を抑圧された状態のもとで車の奪取行為がなされたものならば、同人が管理上の義務を怠つたと認めることはできないが、右認定のように、上野はかなりの素行不良者で、中川において畏怖心を抱き後難を恐れていたことは認められるが、上野の言動等からして、中川の反抗が抑圧された状態にあつたものと認めることは困難であり、少くとも門真市内において停車した後において、中川に上野の運転を中止させる措置をとることが期待できなかつたものと認めることは到底できない。なお、被告は、被告の従業員である中川が被告の業務のため加害車を使用中、右の如き同車に対する管理上の過失により同車が上野に奪われたものであり、また、上野が前記認定のように運転が極めて拙劣で酒気帯び運転をしていることを中川において知つていた以上、上野の運転により事故の発生することを予見することは容易に可能であつたものと解するのが相当であるから、被告が民法第七一五条の使用者責任を負うことは当然である。
五、以上によれば、被告は人損につき自賠法第三条により、物損につき民法七一五条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(吉崎直弥)